黒き藥師と久遠の花【完】
 城へ来る前は、欲しい情報さえ貰えればそれで良いと思っていた。
 けれど仲間のために奔走するレオニードや藥師たちを見て、心から協力したいと感じた。

 分かっている。
 幼かった自分ができなかったことを、彼らにしようとしていることぐらい。

 これで失ったものを取り戻せる訳ではないのに――。

 しかし胸に広がる寂しさの裏側で、日差しが水辺を照らして弾ける光のように、喜ぶ思いもある。

 ただ、ただ、純粋に……人の命をつなぐために、自分が役に立てることが嬉しかった。

(……いつの間にか、根っからの藥師になったんだな)

 みなもが感慨にふけっていると、前からレオニードの視線を感じて我に返る。
 少し気恥ずかしくなり、誤魔化すように浪司を見た。

「浪司、今日はどこで宿を取ろうか? おすすめの所はある?」

「そうだなあ――」

 浪司が思案しようとした時、レオニードが「もしよければ」と話を切り出した。

「二人とも、俺の家に来ないか? 俺の都合でここまで来てもらったのに、恩人にお金を払わせる訳にはいかない」

 レオニードが自分たちに恩を感じているのは分かるが、あまり重く背負ってもらうのも気が引ける。
 気にしないで、と言いたいところだが、ここで断ったら、責任感の強い彼のことだ。ずっと恩を気にし続けるような気がした。

「じゃあお言葉に甘えようかな。浪司もそれで良い……って何だよ、その顔は」

 みなもが浪司に視線を戻すと、彼の目が妙にキラキラと輝いていた。
 一瞬だけ、浪司が好物のハチミツを見つけた時の熊に見えた。

「宿代を心配しなくても良いってことは、食い物にも酒にも金が使えるじゃねーか。よっしゃ、思う存分に飲み食いしてやる」

 握り拳で力説する浪司に、みなもとレオニードは呆気に取られて口を閉ざす。
 それから互いに見合わすと、各々に肩をすくめて苦笑いした。
< 59 / 380 >

この作品をシェア

pagetop