黒き藥師と久遠の花【完】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
城を出た時、もう空は暗くなり始め、山際がかろうじて夕日の赤みが残っているぐらいだった。
ささやかな日差しの恩恵も消え、城下町には肌を斬りつけるような寒さが流れている。
一歩外へ踏み出すだけでも心がめげそうな寒さへ抗うように、人々は家の中を明るく灯す。
家から溢れる光からは、彼らの安らぎと一時の慰めがにじみ出ているような気がした。
レオニードを先頭にして、三人は黙々と石畳の通りを歩き続ける。
今は一刻も早く家に入って、寒さから逃れたい気分でいっぱいだった。
間もなくレオニードは、屋根が急勾配の民家が並んだ通りに差しかかると、その中程で立ち止まった。
「ここに用事がある。すまないが一緒に来てくれ」
みなもと浪司が頷くのを見て、レオニードは白壁の民家の扉を叩く。
中から「はーい」という、少ししゃがれた女性の声がすると、すぐに扉が開いた。
現れたのは、ふくよかで背の低い中年女性だった。
レオニードを見るなり、丸い目をさらに丸くしたかと思うと、満面の笑みを浮かべた。
「お帰りなさい! ああ良かったわ、生きて戻ってくれて……」
そう言うと、うっすらと滲んだ涙を拭い、レオニードの肩を叩いた。
「さあ、外は寒くてしんどかったでしょ? レオニードも後ろのお二人も、早く上がってちょうだい」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
レオニードは堅苦しく答えると、先にみなもと浪司を家に通してから、中に入って扉を閉めた。
城を出た時、もう空は暗くなり始め、山際がかろうじて夕日の赤みが残っているぐらいだった。
ささやかな日差しの恩恵も消え、城下町には肌を斬りつけるような寒さが流れている。
一歩外へ踏み出すだけでも心がめげそうな寒さへ抗うように、人々は家の中を明るく灯す。
家から溢れる光からは、彼らの安らぎと一時の慰めがにじみ出ているような気がした。
レオニードを先頭にして、三人は黙々と石畳の通りを歩き続ける。
今は一刻も早く家に入って、寒さから逃れたい気分でいっぱいだった。
間もなくレオニードは、屋根が急勾配の民家が並んだ通りに差しかかると、その中程で立ち止まった。
「ここに用事がある。すまないが一緒に来てくれ」
みなもと浪司が頷くのを見て、レオニードは白壁の民家の扉を叩く。
中から「はーい」という、少ししゃがれた女性の声がすると、すぐに扉が開いた。
現れたのは、ふくよかで背の低い中年女性だった。
レオニードを見るなり、丸い目をさらに丸くしたかと思うと、満面の笑みを浮かべた。
「お帰りなさい! ああ良かったわ、生きて戻ってくれて……」
そう言うと、うっすらと滲んだ涙を拭い、レオニードの肩を叩いた。
「さあ、外は寒くてしんどかったでしょ? レオニードも後ろのお二人も、早く上がってちょうだい」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
レオニードは堅苦しく答えると、先にみなもと浪司を家に通してから、中に入って扉を閉めた。