黒き藥師と久遠の花【完】
 刹那、背後に足音が迫ってくる。


 振り向く前に、二つの腕がみなもを捕らえた。


 不意打ちの締めつけと、間近になった息遣いに、みなもの全身が一気に熱くなった。

「レ、レオニード!? 一体、何を……」

「離れなくていい。みなもが望むだけ、ずっとここに居てもいいんだ」

 どうしてレオニードが、こんな真似を?

 頭が混乱して、すぐに彼の言葉が理解できなかった。
 考えがまとまらず、鼓動ばかりが勝手に早まっていく。

 自分が自分でいられなくなりそうで、みなもは身をよじってレオニードから離れようとする。
 しかし、腕の締めつけが強くなり、こちらの動きは抑えられる。

 早く離れたいと思う一方で、離れたくないという願いが膨らんでいく。
 揺れる心を悟られまいとして、みなもは腕を上げ、レオニードの頭を軽く叩いた。

「男相手にこんな抱擁してどうするんだよ。冗談でも笑えない」

 あえてからかいの色を見せてみるが、それでも腕は離れない。
 無言が続いた後。
 レオニードが耳元で、腹の底から搾り出すような声で囁いた。


「もう無理して演じなくてもいい。俺は……君が女性だということを知っている」
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