黒き藥師と久遠の花【完】
 言われた瞬間、みなもの視界が白ばむ。

 一体いつ、どうやって気づかれた?
 自分の足を引っ張るしかない、一番知られたくなかった弱点なのに。

 目まぐるしく記憶を探っていくと、暗紅の瞳をした嫌な顔が浮かんできた。

「まさか……ザガットの宿屋で、俺とナウムの会話を聞いて知ったのか?」

「聞くつもりはなかったんだが、みなもを助けに行こうとした時に聞こえてしまった」

 ……腕をつかまれた時、さっさと毒の刃で仕留めればよかった。

 みなもが頭の中に浮かんだナウムに怒りをぶつけていると、レオニードが「それだけじゃない」と言葉を続けてきた。

「君があの宿屋で悪夢にうなされていた時、君が常に胸当てをしていることも、寝言の声が女性のようだったことも知ってしまったんだ。それがなければ、あんな男の言葉は信じなかっただろうが」

 ふとレオニードの腕から力が少し抜け、優しく包みこむような抱擁へと変わる。

「初めて会った時から、みなもは自分を隠したがっていた。だから、言えば恩人の君を追い詰めてしまうと思って、絶対に言うまいと決めていた。黙って力になろうと思っていた。だが……みなもの本心を聞いた以上、黙っていられない」

 浮かれそうな心へ水をかけるように、みなもの理性がつぶやく。

 レオニードのことだから、きっと同情してくれているんだ。
 もしくは彼なりに恩を返そうとしているのかもしれない。

 変な期待は持たないほうがいい。そう割り切って、みなもは静かに息をついた。

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