黒き藥師と久遠の花【完】
「ありがとう、離れなくてもいいって言ってくれて。同情からでも、その言葉が聞けただけでも俺は満足だから――」

「違う、同情なんかじゃない!」

 レオニードの声がにわかに鋭くなる。
 押し黙った後に出てきた声は、心なしか震えていた。

「俺も……君から離れたくないんだ」

「……え?」

 反射的にみなもは首を動かしてレオニードを見る。
 息がかかるほど顔が近くにあり、胸が見苦しく騒ぎ出す。

 こちらを伺いながら、レオニードがさらに顔を近づけ――。

 ――わずかに上向いたみなもの唇へ、己の唇を重ねた。

 以前に解毒剤を飲ませた時とは違う、苦味のない口づけ。
 何もないからこそ、伝わってくる温もりを全身で感じてしまう。

 ゆっくりとレオニードの唇が離れた時、みなもは二人の間に割り込んできた寒さで我に返る。
 緩められた腕の中で、みなもは体を回してレオニードと向き合うと、彼を見上げた。

 言いたいことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。
 ただ熱く潤み出した瞳で、彼を見つめることしかできなかった。

 レオニードが少し照れくさそうに微笑を浮かべた。

「みなも、どうかここで共に生きて欲しい。そのためなら、どれだけ君が重い事情を抱えていたとしても、まだ君に秘密が隠されていたとしても、すべてを受け入れたい。俺は君を……愛している」

 一緒に生きてくれるの?
 嘘ばかりで身を固めていた、弱くて臆病なこの身を愛してくれるの?
 今まで背負ってきたものを持ったまま、貴方の隣にいてもいいの?

 我知らず、みなもはレオニードを見上げたまま胸元へしがみつき、頬に一筋の涙を流した。

「どうしよう……レオニードに迷惑をかけ続けるって分かってるのに、すごく嬉しい」

 指で涙を拭いながら、みなもは笑顔を取り戻す。
 そしてレオニードの首へ両腕を回した。

「俺、かなり欲張りだから覚悟してよ? これで冗談だって言ったとしても、貴方を求め続けるから」

「その言葉、みなもに返そう。俺も自分で思っていた以上に、欲張りな人間らしい」

 どちらともなく顔を寄せ、再び口づけを交わす。
 ずっと求めていた温もりが惜しみなく注がれ、みなもの奥深くまで広がっていく。
< 97 / 380 >

この作品をシェア

pagetop