夏の空を仰ぐ花
「てか、夏井、部活中だべ」


結衣の声に、あたしはくるりと振り向いた。


「野球部だからな」


「野球部に乗り込む気かよ」


呆れ顔の親友ふたりの肩越しに、夏の終わりが近付いている青空が、輝いていた。


「乗り込む勇気がなくて、恋なんかやってられっか」


あたしがニッと笑うと、案の定ふたりはがっくり肩を落として苦笑いした。


「「そんなの明日でいいじゃん」」


「ダメさ! バッドバッド。そんな悠長なこと言ってたら、痛いめ見るぞ」


だって。


当たり前の明日があるなんて、誰が言った?


「明日がどうなるかなんて、分かんないもん!」


「はい?」


結衣の肩から鞄がずり落ちる。


確かに、大輔に種目交代してもらえたから、明日は補欠と一緒に行動できるのかもしれない。


でも、あくまで「かもしれない」だ。


今日のうちに、何かが起きてしまう前に。


メールや電話じゃなくて、今、直接伝えたくてたまらなくなった。


「だって、明日になってからじゃ、遅いかもしれないべ」


だから、今日のうちに。


思い描く理想の明日が必ず来るなんて保証は、どこにもないから。


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