夏の空を仰ぐ花
毎日、一緒に居られると思っていたのに。


あの日、必ずいつものように帰って来ると思っていたのに。


突然、もう父が帰って来なくなってしまったように。


「明日、必ず、確実に。補欠に会えるって保証はないだろ?」


あたしはかなり真剣に大真面目に言ったのに、ふたりはブハッと吹き出した。


「こらー! 笑うとは失礼な」


左手を振り上げてほっぺたを膨らますと、分かった分かった、と明里が諭すように言った。


「そういう念には念を、みたいなとこ、翠らしいわな」


「まあ、ね。けど、邪魔だ、帰れ、って言われるのがオチだと思うけど」


小馬鹿にして笑い飛ばした結衣を、あたしはギロリと睨んだ。


「お前ら。味方なんだか、敵なんだか」


「もし」


と明里が、全開の窓の外を指差した。


「もしも、明日。一緒に居たくないって拒否られたらどうすんの?」


3人の空間を、窓から入って来る運動部の声が吹き抜けて行った。


オーロラのようにやわらかな波を打って、風に揺れるカーテンの裾。


沈黙を一気に押し上げて、あたしは口を開いた。


「いいよって、補欠は言ってくれると思う。あたし、分かるもん」


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