夏の空を仰ぐ花
初めは迷惑そうな顔をするんだと思う。


でも、何だかんだ言っても、補欠なら最後にはいいよって笑ってくれるんじゃないかと思う。


「いいよって……言ってくれるもん」


メールとか電話じゃなくて、ちゃんと真っ直ぐ目を見て、真剣に伝えれば、補欠は分かってくれると思う。


……きっと。


補欠は、そういう人間だ。


あたしは窓際後ろから3番目の空席をじっと見つめた。


あたしのひとつ前の机。


補欠の席だ。


机にやわらかそうな晩夏の西日が射し込んでいた。


そのやわらかさが、たまにしか見れない補欠の笑顔みたいで、少しだけ切なくなった。


キュ、と胸が締め付けられた。


明日、補欠の隣に居たい。


「とりゃー」


その時、結衣があたしの額にチョップをした。


「いっ……何すんじゃ」


「もー。見てるこっちが切なくなっちまうだろ」


と結衣がクスクス笑った。


「どんだけ好きなんだよ、夏井のこと。見てらんねえわ」


「へっ」


口から飛び出していたのは、自分でも呆れたほど間抜けな声だった。


「こら、翠」


と明里が、あたしの顔を指差す。




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