夏の空を仰ぐ花
―当たって砕けて―


そうだ。


その通りだ。


アドレスを聞き出す時だって、そうだった。


あたしはいつだって、体当たりしてきた。


体当たりしか方法がなかったから。


体当たりで、ここまで補欠との距離を縮めて来たじゃないか。


それなのに、何だ。


ライバルが現れたから、少し、弱気になってしまうなんて。


―こっぱみじんに、砕け散ってしまえ―


上等だ。


人は恋という湖に落ちると、強くなれる者と、弱くなってしまう者に分かれる。


例えば、吉田翠、15歳の場合。


あたしは間違いなく、前者だ。


彼が青空の下で笑っていてくれさえすれば、あたしはどこまでも強くなれる。


抜けるような青空。


綿菓子のように繊細な雲。


校舎を吹き抜ける、暑い風。


でも、夏の終わりが近い。


青空の下を、あたしは突っ走った。


「待ってろ、補欠!」


だけど、あたしはすでに、恋の迷路に翻弄されていたのだ。


切なくて、苦しくて、険しい。


それはゴールの見えない、恋の迷路だった。





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