夏の空を仰ぐ花

秋桜

なんで、誰も教えてくれなかったんだろう。


恋がこんなにも苦しいものだってことを。


父も母も、学校の先生も、誰も教えてくれなかった。


誰かが教えてくれていたら、何か変わっていたのかと聞かれても、首を縦に振ることができるわけでもないけど。











花菜ちんとの語らいは5時間にも及んだ。


一年D組の窓際の席で、昼ご飯も忘れて話し込んで、気付いたらもう文化祭も佳境にさしかかる時間帯になっていた。


15時を過ぎて、出し物をたたみ始め、ちりぽりと生徒たちが各々の教室に戻り始めていた。


その頃には泣き疲れて、あたしは落ち着きを取り戻していた。


数時間前、泣きじゃくるあたしに、花菜ちんは言った。


「これは、あたしの勝手な予想なんだけど」


誰もいない教室には花菜ちんの話し声と、あたしの鼻をすする音だけが響いていた。


「うちらが3年になった時、南高のエースナンバーを背負うのは、響也だと思うの」


え、と顔を上げたあたしに、花菜ちんはティッシュを差し出して微笑んだ。


「もうひとり、響也と同じレベルのピッチャーがいるんだけどね。翼(つばさ)っていう子なんだけど」


あたしは豪快に鼻水をズビビーッとかんで、睨んだ。


「じゃあ、そいつがエースになるかもしれないじゃないか!」


「だけど、あたしは響也だと思う」


「なんでそう言い切れる? 補欠とそいつ、同じレベルなんだべ?」


うん、と頷いて、花菜ちんは窓から外を見下ろした。


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