夏の空を仰ぐ花
「そう思う?」


「思うとも!」


「それが、そうでもないんだなあー。これが」


と花菜ちんは苦笑いして机に頬杖をついた。


「野球部って休みないし、だからデートのひとつもできやしない。それに、野球のことでケンカしてばっかだよ」


でも、うらやましいと思う。


いつも一緒にいられるんだから。


いつも見ていられるんだから。


「あーあ。休みが欲しい」


働き詰めのOLみたいにふうーと息を吐いた花菜ちんに、あたしは聞いた。


「花菜ちんと岸野氏、どっちから告白して付き合うことになった?」


おそらく、姉御肌の花菜ちんだろうと予測したあたしの考えは覆された。


花菜ちんはくすぐったそうに頬を赤らめて答えた。


「健」


「岸野氏か」


「でも」


と花菜ちんは窓の外を指差した。


「キューピッドは、響也様」


スッと立ち上がって、花菜ちんは校庭を埋め尽くしている屋台を見て、クスクス笑った。


「あたし、健のこと好きなのに全然素直になれなくて。わざとひねくれて、健とケンカになっちゃって。みんなが帰ったあと部室でわんわん泣いてたら、響也が健のこと引きずって来て」


―好きな女に言いたい事も言えねえのか!


「響也の怒鳴り声が聞こえたと思ったら、部室のドアが開いて、珍しく感情的な響也が健の胸ぐら掴んで、部室に突き飛ばしてね」


―好きな女に気持ちも言えねえやつが、甲子園行けるか!


「あたし、びっくりよ! いつも冷静な響也が目くじら立ててるんだもん」


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