夏の空を仰ぐ花
そう言って、花菜ちんは丸くて大きな目を横に引っ張って伸ばした。


「こーんな目して!」


「おお、あの補欠が」


「そう。だから、せっかくの健の愛の告白、実はあまりよく覚えてないの」


「え! そうなのか?」


「そうよう。感情的な響也の方がインパクト強くて! 強烈だったもんね」


普段大人しい人間が感情的になると怖いわあ、と花菜ちんは校庭を見下ろしてクククと笑った。


「見て、翠ちゃんも」


「うん?」


あたしも立ち上がり、窓から下を見下ろした。


「ほら、ね」


花菜ちんが指差した先には、一年生の野球部のひとかたまりができていて、じゃれ合っていた。


そこには補欠の姿もあって、胸が締め付けられた。


わあわあ騒いでじゃれ合う輪に、校舎から飛び出して行った岸野くんが加わる。


「今はあんなふうに無邪気にはしゃいでるけど、部活になると、みんな目の色変えて、夢中になってボールを追い掛けるんだ」


あいつら、と花菜ちんが笑う。


「南高野球部は、みんな、やるときゃやる男ばっかだから。だから、大丈夫なんじゃない?」


「……どういう」


と言いかけたあたしの言葉を、花菜ちんの声が遮った。


「響也なんて、特にそう。やるときゃやる男よ。響也、バカじゃないから、ちゃんとそれなりの行動とると思う。だから、翠ちゃんは笑っていればいいんだと思う」


と、花菜ちんはまたまた意味深な微笑みを浮かべていた。


あたしは補欠に怒鳴られたショックが大きくて、その意味深を探る気力はなかった。


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