夏の空を仰ぐ花
校庭で無邪気にじゃれあう野球部のひとかたまりの向こうに、真っ白なコスモスと、真っピンクのコスモスが風に揺れていた。


秋の青空は限りなく透き通っていて、緩く入り込んで来る風があたしの涙を乾かしていった。













「待って! 翠ちゃん」


すれ違いざまに涼子さんに呼び止められたのは、花菜ちんと話し終わって教室へ向かう廊下でのことだった。


一緒に居た相澤先輩と若奈ちゃんが、ギョッとして振り向いたあたしを見つめていた。


「その目」


泣き腫らしたぼってりとしたあたしの目を見て、険しい顔をして涼子さんが駆け寄って来る。


「泣いたの?」


「そうじゃないと言ったら大嘘になる」


泣いた事がバレたのが悔しくて、あたしは涼子さんから目をそらした。


「どうして?」


聞いてきた涼子さんの手には、携帯電話が握られていた。


もう、補欠とメールしたんだろうか。


あたしはつっけんどんに返した。


「なにさ」


「どうして、あんなことしたの?」


「あんなこと?」


顔を上げると、涼子さんは難しい顔をしてあたしを真っ直ぐ見つめていた。


涼子さんの背後で、相澤先輩と若菜ちゃんがキョトンとしていた。


涼子さんが、携帯電話をぎゅっと握りしめた。


「夏井くんのアドレス……」


「……知るか。つか、良かったじゃんか」


「え?」


「あたしのおかげだべ。補欠のアドレス、欲しかったんだろ?」


大事にしろ、そう言って踵を返したあたしに、涼子さんはたたみかけるように言った。


「だって、翠ちゃんも夏井くんのこと好きなんでしょ! なのに、どうしてあんなことしたの?」


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