夏の空を仰ぐ花
この人に、補欠を捕られるかもしれない。


本気でそう思った。


こわくて、足が震えた。


「翠ちゃん」


言葉を失って立ちすくむあたしを、涼子さんは突き刺すような目で見つめてくる。


動けなかった。


「もし、OKだったら。私、付き合うから。夏井くんと。いいかな?」


なんで、そんなことをわざわざ、あたしに聞くんだ。


あたしは奥歯をギリッと噛んだ。


「そんなのっ……好きにすればいいじゃんか! いちいち、あたしに確認しなくてもいいじゃん!」


「本当にいいの?」


そんなこと、あたしに聞かれても困る。


「そんなの、あたしが決める事じゃないもん! 補欠が決める事じゃん!」


あたしは体中にまとわり付く毒々しい物を振り落とすように、加速しながら廊下を駆け抜けた。


涼子さんが告白した。


補欠に。


きっかけを作ったのは、あたしだ。


この、あたしだ。


ふたりが付き合ってしまうかもしれない。


教室に飛び込むと結衣と明里だけが居て、


「翠……?」



「お前……なに泣いてんだよ」


と急に顔色を変えて、同時に椅子を立った。


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