夏の空を仰ぐ花
そうか、あたしは泣いているのか。


あたしはふたりの間をすり抜けて、鞄を掴んで、教室を飛び出そうとした。


「翠!」


「どこ行くんだよ」


ふたりに呼び止められ、あたしは出入り口の前で振り向いた。


助けてくれ、結衣。


助けてくれ、明里。


とめどなく溢れる涙で、ふたりの顔が滲んでよく分からなかった。


「もう、どうしたらいいのか分からん!」


いつも優しい補欠が、あたしに怒鳴り声を上げた。


もう来るなって、言った。


そのショックは地球が真っ二つに割れて、消滅してしまうほどの強烈な衝撃で。


ぼろぼろ、ボロボロ、涙が頬を伝い落ちる。


苦しくて、切なくて、胸が張り裂ける。


「補欠に嫌われたかもしれん」


涼子さんが、補欠に告白してしまった。


負けてしまうかもしれない。


恋は先手必勝なのに。


出遅れてしまった。


「嫌われたらどうしようもないのに……嫌われたかもしれん!」


感情を露わにして泣くあたしに驚いたのだろう。


結衣も明里も魂を抜かれたように、唖然と立ち尽くしていた。


「もう、何をどうしたらいいのか……検討もつかん……」


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