夏の空を仰ぐ花
ひゅうっと入って来る秋の風が、つーんと鼻にしみる。


泣いて火照った顔の熱を、風が奪っていった。


カ……ン。


向こうに見える野球グラウンドから重なり合う掛け声と、バッドがボールを弾き返す甲高い音が聞こえてくる。


あたしは薄暗い中、野球グラウンドをじっと見つめた。


そういえば、補欠を初めて見たのは入学式前日の夕方だったな。


あの時は、まだ気づきもしていなくて。


だって、まさか、その謎の男にまんまと恋に落ちてしまうなんて思ってもいなかったから。


だから、次の日、掲示板の前で補欠を見た時、運命だと思った。


「……運命だって、思ったんだけどな」


あたしは窓を開け放ったまま、再び、補欠の椅子に座った。


机を両手でそっと撫でる。


懐かしいな。


出逢って、初めて口をきいた日から、まだ一年も経ってないけど。


もう懐かしく感じる。


あたしは入学式の翌日から毎朝4時に起きて、一番乗りで教室に入ることにしている。


あの日から、毎日だ。


それで、補欠の席に座って、補欠が朝練する姿を見つめるのが秘密の日課だ。


3階の、この席から。


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