夏の空を仰ぐ花
最初は見ているだけで胸がいっぱいになって、それだけで幸せに満たされた。
完全に完璧に、あたしは夏井響也の大ファンになった。
でも、気付いたら見ているだけじゃ足りなくなった。
近づきたくなって、話をしてみたくなって。
話したら、今度は独り占めしたくなった。
あたしだけを見て欲しくてたまらなくなった。
初めてかわした、会話。
声を掛けて来たのは、補欠だった。
朝、いつものようにこの席に座ってぼんやり野球グラウンドを眺めていたあたしに、補欠は言った。
―そこ、おれの席なんだけど
―え! うそ! なんで?
―なんでって……てか、吉田さんの席はもうひとつ後ろでしょ
嬉しかった。
補欠が、話した事もないあたしの名前を知っていてくれたことが、たまらなく嬉しかった。
そんな春の日の事を思い起こして浸っていると、携帯電話の着うたが鳴り響いた。
突然の音量にびっくりしながら、胸ポケットから携帯電話を出して開く。
【着信 佐藤 結衣】
心配して掛けてきてくれたのだろう。
通話ボタンを押した時、
【充電して下さい】
ピーと鳴いて、ディスプレイは黒く沈んだ。
完全に完璧に、あたしは夏井響也の大ファンになった。
でも、気付いたら見ているだけじゃ足りなくなった。
近づきたくなって、話をしてみたくなって。
話したら、今度は独り占めしたくなった。
あたしだけを見て欲しくてたまらなくなった。
初めてかわした、会話。
声を掛けて来たのは、補欠だった。
朝、いつものようにこの席に座ってぼんやり野球グラウンドを眺めていたあたしに、補欠は言った。
―そこ、おれの席なんだけど
―え! うそ! なんで?
―なんでって……てか、吉田さんの席はもうひとつ後ろでしょ
嬉しかった。
補欠が、話した事もないあたしの名前を知っていてくれたことが、たまらなく嬉しかった。
そんな春の日の事を思い起こして浸っていると、携帯電話の着うたが鳴り響いた。
突然の音量にびっくりしながら、胸ポケットから携帯電話を出して開く。
【着信 佐藤 結衣】
心配して掛けてきてくれたのだろう。
通話ボタンを押した時、
【充電して下さい】
ピーと鳴いて、ディスプレイは黒く沈んだ。