夏の空を仰ぐ花
ツイてない時は、とことんツイていないものだ。

「……ああっ!」


こんな時に限って電池が無くなるとは。


「ちっ、最悪だ」


舌打ちをして、黒板の真上の壁時計を見つめた。


目を細めてじっと見ないと確認できないくらいまで、教室は暗くなっていた。


窓の外も、もう暗い。


ぼんやりと浮かぶおぼろ月が、かろうじて教室を照らし出していた。


ようやく確認できた時、時刻はもう18時半を過ぎていた。


もうこんな時間か。


帰らなきゃ、と心は訴えているのに、あたしの体は言うことを聞こうともしない。


今日はいろんな事があり過ぎて、泣いて泣いて、あたしは疲れきっていた。


立ち上がることすら面倒でたまらない。


月明かりが差し込むだけの暗い空間にひとりでいると、猛烈に孤独になった。


広い広い宇宙にぽんと放り出されて、破棄されたような気分になる。


夜の教室なのに怖くもかゆくもないのは、父譲りなのかもしれないと思う。


あたしの父はちょっと変わり者で、趣味はナイター中継を観る事と、夜の学校や廃墟に忍び込んで散策することだった。


夜、父が家に居ない。


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