夏の空を仰ぐ花
それは、決まって校舎や廃墟に忍び込んでいる証拠だった。


『今日は翠も一緒に行ってみるか?』


小学生の時、たった一度だけ。


父と一緒に、夜の中学校に忍び込んだ事があった。


「行く!」


わくわくした。


幽霊が出たらどうしようとか、そういう恐怖心なんてひとつも感じなかった。


ただ、とにかくわくわくした。


怪盗ルパンになったような気がして、楽しくてたまらなかった。


その帰り道、父はあたしを肩車しながら言ったのだ。


『翠と同じ小学生の頃。父には、ふたつの夢があったんだ』


「教えて、父の夢」


『ひとつは、プロ野球選手だ」


「もうひとつの方は?」


『……海賊だ!』


だけど、どっちもダメになったから、夢を変えることにした。


次の夢は、夜の学校に住むおばけになる事だ。


いろんなおばけと仲良くなって、友達をいじめる悪い人間を退場してやるんだ。


父は学校のおばけで一番偉いおばけのボスになって、世界を救うんだ。


『どうだ! かっこいいだろ』


「かっこいいー!」


あたしは父に肩車されるのが、本当に大好きだった。


「翠もおばけのボスになりたい!」


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