夏の空を仰ぐ花
一年前の今日。


たしか、時間帯もほとんど同じだった。


近くの廃墟に忍び込みに行った父を、あたしたちは待ちくたびれていた。


母が半日かけて作ってくれた巨大なバースデイケーキを前にして、みんなで待っていた。


ちょうど19時を過ぎた頃、突然、自宅の電話がけたたましく鳴り響いた。


まるで、サイレンのように。


あたしはぐずる茜と蒼太をあやしていて、母が受話器をとった。


「はい、吉田です……ええ。吉田達明は夫ですけど」


茜と蒼太をあやしながら母の横顔を見つめていたあたしは、独特な胸騒ぎにかられていた。


「……ちょっと……待って……何かの間違いだろ!」


みるみるうちに青くなり、終いに顔面蒼白になった母は、


「……たっちゃ……」


ゴトリ、とフローリングに受話器を落として、魂を抜かれたようにへたりと座り込んだ。


「何だ、誰から電話?」


「……翠!」


あたしを見た母の顔を見て、背筋にぞくりとしたものが走った。


真っ暗で、どっしりと座っていて、どこを見ているのか検討もつかない目を、母はしていた。


「翠……たっちゃんが死んじゃった……」


< 167 / 653 >

この作品をシェア

pagetop