夏の空を仰ぐ花
「真っ直ぐ生きたって……これじゃ……」


ぽつり、ぽつり。


補欠の机に小さな水たまりができていく。


「素直になれないんじゃ……意味ねーよ、父……」


あんなに泣いたっていうのに、それでも溢れる涙にため息すら出ない。


仕方ない。


もともと、あたしはナミダ王国の王女だったのだ。


一度切れた涙腺は、なかなか修復できない。


机に突っ伏したまま、あたしはピアスをぎゅっと握った。


耳の奥で、父の声が鮮明に蘇った。


『翠が世界中を敵に回しても、父は娘の味方だ』


大好きな父がそう言ってくれたから、


『それだけは忘れるなよ、翠』


あたしは怖いものなんてないと思っていた。


『翠、何も迷うことはないぞ』


だから、迷わず今日まで生きてきた。


『己の信じる道を、真っ直ぐ行けよ』


信じる道を、真っ直ぐ生きてきたつもりだ。


『父は娘の行く道を信じるぞ』


だけど、あたしが信じてきた道は、どうも複雑だったらしい。


父。


「父……あたし、好きなひとがいる」


補欠の机に突っ伏して、声を震わせながら呟いた。


そこに父がいるはずもないのに。


「夏井響也ってんだ。父と同じ野球バカで、ピッチャーで、左利き」


どうして、父は教えてくれなかったんだ。


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