夏の空を仰ぐ花
母と大恋愛した父なら、教えてくれても良かったじゃないか。


恋ってのはこんなにも苦しいものだってこと。


切なくて、辛くて、苦いものだってことも。


「好きで好きで……たまらんのだ」


でも、恋がこんなにまで辛いものだというのなら。


……しなければ良かった。


「……嫌われたかもしれん」


これが運命だというのなら、これから先、あたしはどうしたらいいのだ。


まさか、自分が色恋沙汰ごときで、ここまでズタボロになってしまうとは、予想もしていなかった。


恋とはなんと苦しいものなんだ。


父。


なんで、それを一番に教えてくれなかったんだ。


「父……お願い。あと一回だけ、チャンスをください」


ポツポツ、頬を伝って涙が落ちる。


「ワンモアチャンス」


もし、そのチャンスを与えてくれるというのなら、あたし、その時は……。


「素直に……なるから」


だから、なけなしのチャンスをあたしにください。


「補欠に……会いたいっ……」


今すぐ。


補欠に会って、伝えたい。


たったひとつ、伝えたい想いがある。


だからもし、父にあたしの声が届いていたら。


お願いします。


あたしに、チャンスをください。


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