夏の空を仰ぐ花
優しい瞳をして、補欠がこっちを見ていた。


でも、夢なんかじゃなかった。


学ラン姿の補欠だった。


信じられない……。


本当に、来るなんて。


「補欠?」


来た。


「何でいんのよ」


ふう。


疲れたような、呆れたような、でも、優しい息を吐いて補欠は言った。


「それはこっちのセリフ。翠こそ、こんな時間まで何してんの?」


補欠が来てくれたらいいな、って。


会えたら、って。


夢でも何でもいいから、補欠に会いたい……って。


補欠のこと待ってた、だなんて言えなかった。


あたしはわざと目を反らして、黒板の上の時計を見つめた。


19時10分か。


たしか、父が事故にあったって警察から電話がかかってきたのも、こんな時間帯だった気がするな。


ちょうど一年前の、この時間帯。


父の命日と、あたしのバースデイ。


あたしはカチコチ音を立てる秒針を目で追いかけながら言った。


「今日ね、スペシャルな日なの」


「スペシャル?」


「会いたい幽霊が居るの」


父に、もう一度、会いたいものだ。


目がぐっと熱くなって、あたしは手の甲でぐいっとこすった。


「翠……?」


補欠の優しくて低い声が、やけに涙を誘った。


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