夏の空を仰ぐ花
だから、わざと明るく振る舞った。


「てか、別に席間違えたわけじゃないから。勘違いすんなよ」


あたしは椅子から立ち上がり、補欠の方は一切見向きもせず、ひとつ後ろの自分の席に移動した。


椅子にもたれてうつむき加減になっていると、補欠が歩いて来てひとつ前の椅子に座った。


補欠は無防備な格好だった。


いつも体の一部と化しているスポーツバッグは背負っていないし。


足元は上履きじゃなくて、ローファーで土足だった。


間違いなく、部活後なんだと思う。


補欠が部活を休むなんてことは、真夏に大雪が降るのと同じくらいのことだから。


なのに、補欠は全然汗臭くなかった。


逆に、秋の冷たい外の匂いがして、爽やかささえ感じた。


さりげなく窓辺に射し込んでくる淡い淡い、明かり。


月明かりに照らされた補欠の背中は目の前にあるのに。


どんなに手を伸ばしても届かないような気がして、たまらなくなった。


いつもこの近い位置で、毎日、朝から夕方まで見つめているはずなのに。


いつも、補欠が遠くて。


すごく遠くに感じて、泣きそうになる。


ふと、涼子さんの声が脳裏をよぎった。


―告白、した


―もし、OKだったら。私、付き合うから


―いいよね?



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