夏の空を仰ぐ花
「ねえ、補欠」


あたしは涙をこらえて、補欠の背中を見つめた。


「あの年上の女と付き合うの?」


「えっ」


補欠の背中が、ギクリと動いた。


学ランにシワが寄る。


「付き合うの?」


もう、限界。


爆発寸前まできていた。


あたしの声は完全に震えていた。


聞いても何も答えない補欠の背中を、やわらかな月明かりが照らしている。


沈黙が流れる教室に響く秒針の音が、やけに大きく感じた。


限界だよ、あたし。


なんでこんなに、補欠のことが好きなんだろう。


「答えろよ、補欠」


やっぱり少しの間があって、でも、ようやく補欠は答えた。


「……付き合わねえよ。涼子さんとは付き合う気ねえから」


「なんで?」


ねえ、補欠。


なんで?


涼子さんみたいな美人を彼女にできるかもしれないんだよ。


花菜ちんは、バカじゃないって言ってたけどさ。


確かに、補欠は成績もいいけどさ。


バカだと思う。


補欠、バカだよ。


涼子さんみたいな美人が、付き合って欲しいって言ってくれるようなこと、めったにないぞ。


補欠。


なんで?


「おれ、好きやついるから」


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