夏の空を仰ぐ花
「じゃ……て……よ」


涙で声にならないあたしの声を聞いて、補欠は抵抗するのをやめてピタリと硬直した。


ナミダ王国の王女という経歴を持つあたしは、さすがだった。


ひと粒涙をこぼしたとたんに、土石流のように止まらなくなってしまった。


涙は濁流のように頬を流れ落ち、ボツリボツリと補欠の肩に落ちていった。


「翠?」


補欠の優しい声が傷口にしみて、痛くて。


苦しくて、切なくて。


ただ、好きで。


理由なんてない。


だって、気付いた時にはもう、好きになっていたから。


「翠……?」


涙に濡れた声で、あたしは怒鳴るように言った。


「じゃあ、甲子園連れてけよ! あたしを甲子園に連れてけ!」


父が行きたがっていた、そこに。


母を連れて行きたがっていた、そこに。


あたしを連れて行ってよ、補欠。


「……」


補欠は口をつぐんだまま、あたしの腕をぎゅっと左手で掴んだ。


補欠の手は温かくて、あたしの腕を簡単に包み込んでしまうくらい大きかった。


「補欠う……」


なんでおれがお前なんか、って断られるんだと思った。


それは覚悟していた。


覚悟、した。





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