夏の空を仰ぐ花
「いいよ」


補欠はあたしの腕からするりと抜け出して、あたしの右横に立った。


嘘でしょ……。


まさか、そんな返事が返ってくるなんて思ってもいなかったから。


いいよ、って言ってもらえたことが夢みたいで、嬉しくて。


「補欠……っ」


あたしはうつむいたまま、泣いた。


「翠……」


補欠の左手が、そっと、あたしの右腕を掴む。


「おれと一緒に甲子園に行こう」


夢を見ているんだと思った。


ドラマや映画みたいに、おれがお前を甲子園に連れてってやるよ、なんて。


そんなふうに言わないあたりが補欠らしいと思った。


一緒に行こう。


そこが補欠らしいと思った。


あたしなんかでいいの?


一緒に行くの、あたしで?


だって、こんなガサツでズボラで、気が強くて可愛げのかけらもない女なのに。


それでも、補欠はいいのか。


「嘘ついたら、まじでぶっ殺すけど」


しゃくりあげながら強気な口調のあたしに、補欠はクスクス笑った。


「まあ、確かに今は補欠だし。保証はできないけど」


確実性の無い約束はできないけど、と遠回しに言うあたりが、補欠らしいと思う。


「一緒に甲子園に行こう」


言葉数、口数が少ない分、要点をストレートに言うところも。


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