夏の空を仰ぐ花
涙が邪魔をする。


何も言い返せずこくりと頷いたあたしの手を、補欠は強く握った。


補欠の一番大切な、左手で。


「好きです」


え……。


補欠の言葉に、涙が引っ込む。


息ができない。


あたしは目を丸くして、とっさに顔を上げた。


涙で滲むベールの向こうに、無表情な顔の補欠がいた。


「今……なんと?」


心臓が止まったのかと思った。


いつもしている普通のことがうまくできない。


呼吸がこんなに難しいものだったとは。


補欠の瞳は月明かりを吸収して、優しい輝きを放っていた。


補欠の目を見ると、自分が誰なのか、今どこにいるのか、分からなくなってしまう時がある。


あまりにも真っ直ぐだから、吸い込まれてのまれてしまう。


「付き合って下さい」


あたしと補欠以外、全部、時が止まったような気がした。


でも、壁時計の秒針だけが当たり前のように時を刻む。


補欠の真っ直ぐなのは視線だけじゃなくて、言葉もそうだ。


好きです。


付き合って下さい。


無口で無表情な補欠を、みんなは無愛想だとか何を考えているのか分からないと言って、困った顔で笑うけど。


あたしは違うと思う。


こんなにも分かりやすい男は居ないと思う。


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