夏の空を仰ぐ花
補欠の口から飛び出す一言一言は、余計な付属品がひとつも付いてない。


一言一言が無防備で、裸んぼうで、真っ直ぐだ。


だから、どんなに飾られた言葉よりも、真っ直ぐストレートに人に届く。


「泣くなよ」


補欠は、真っ直ぐだ。


あたしの涙腺は一瞬にして壊滅した。


ぶわっと大量の涙が噴出して、補欠が霞んで見える。


「ぶっ殺すー」


「えーっ……」


「補欠うー」


あたしは椅子を倒しながら立ち上がり、補欠の胸に飛び込んだ。


ぎゃああーとバカみたいに泣き叫びながら。


「好きー! あたしも好きー! ちょー大好き……補欠ーっ」


「おわっ! 翠っ」


「すきーっ……」


補欠。


あたし、死んじゃうよ。


幸せ過ぎて、だめだ。


「ちょっと待て!」


「イヤ!」


「イヤって!」


「やだ!」


抱きとめてよろけた補欠。


それでも、あたしは抱き付いた。


補欠の腕の中は、宇宙空間だ。


それくらい広くて、迷子になってしまいそうなくらい大きかった。


「まじかよ!」


あたしをすっぽり包み込み、机にぶつかり椅子をなぎ倒しながら、補欠は後ろに倒れ込んだ。


「痛ってえ……まともに抱き付いてこれないのかよ、お前は」


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