夏の空を仰ぐ花
場所だって、宮殿みたいなロマンチックなとこじゃなくて、月明かりが射し込むだけの夜の教室で。


だけど。


ああ、これは一大事。


喉の奥がただれてしまうほどの甘いプリンの中に溺れてしまった。


今宵、甘ったるーい幸福の中、あたしはとろけてしまいそうだ。
















教室を出た時はもう19時半をとうに過ぎていて、夜も深みにハマりかけていた。


真っ暗な校庭に出ると、太り気味の下弦の月が浮かんでいた。


「これは……夢なのか」


駐輪場の脇に突っ立って、あたしはぼんやりと夜空を見上げた。


「信じられん」


めまぐるしい1日だった気がする。


足がふらふらして、今にも座り込んでしまいそうになる。


駐輪場の方からガシャンと音がした。


振り向くとカラカラと車輪の音を立てて、自転車に乗った補欠があたしの前でブレーキをかけた。


「鞄、貸して」


すっと、補欠の左手が伸びてくる。


「何で?」


首を傾げると、補欠は無言のままあたしから鞄を奪って、カゴに入っているスポーツバッグの上に乗せた。


「後ろ、乗る? 送ってく」


補欠の肩越しに、木の葉がさわさわと夜風に揺れていた。


「補欠」


あたしは自転車の後ろを指差して、補欠を見つめた。


「再度、確認する」


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