夏の空を仰ぐ花
は? 、と補欠が無表情のまま小首を傾げた。


ちょっとまだ、信じられないのだ。


どうも、信じられない。


「ところで、あたしは補欠の何なのだ?」


確認しないと、まだ信じられない。


「ほんとか? ほんとに、あたしのこと好きなのか?」


「言ったろ。好きだって」


一筆書こうか、と補欠は困った顔になって肩をすくめた。


「そっかあ! あたしも好き!」


勢い良く後ろに飛び乗って、あたしは補欠の腰に両手をまわしてぎゅうっとしがみついた。


補欠がククッと笑いを漏らす。


「そんなしがみつかなくても大丈夫だって。乱暴な運転しないから」


「うっせえなあ! いいじゃん。彼女の特権だろ!」


「はいはい」


男の人なんだ……としみじみと実感した。


ごつごつした腰骨。


ドキドキして、心臓が破裂するんじゃないかと心配になる。


小柄だと思っていたのに、頬をくっつけてみるとその背中は広くて大きくて。


いっそ、補欠の体の一部になってしまえたら、と思った。


野球部なんだな、そう思った。


無駄な肉は一切なくて、筋肉質で引き締まった体。


学ランの上からでもはっきり分かった。


「じゃあ、行くか」


補欠が自転車を加速させる。


< 184 / 653 >

この作品をシェア

pagetop