夏の空を仰ぐ花

追憶

過去の記憶。


想い出。


それらをきめ細やかな繊細な網ですくって残した、砂金。


すくってすくって残し浄化された美しい、結晶。


追憶。











幼い頃のあたしは、極めて泣き虫だった。


腕を蚊に刺されたくらいでもわんわん泣いてしまうような、ナミダ王国の王女だった。


「ちちー。みどりは、よわむしなのかなあ。よわむしだから、いつもなみだがでるのかなあ」


まだ3歳だったあたしに、父は言った。


『翠は泣き虫だけど、弱虫なんかじゃないぞ』


父はまだ成人すらしていなくて、19歳という若い若いパパだった。


『弱いことは悪いことじゃないんだ』


父の言った一言が難しく思えて理解できていなかった、幼いわたしのおかっぱ頭を、


「たくさんなくのに、みどりはよわむしじゃないの?」


『そうだ』


大きな手のひらがすっぽり包み込んだ。


暖かい左手だった。


『いっぱい泣きなさい。泣いて、泣いて、いっぱい泣いたあとは、たーくさん笑うこと』


笑っている女の子の所には、幸せがいっぱいやってくるぞ。


そう言って、父はあたしを肩車してくれた。



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