夏の空を仰ぐ花
あの頃、あたしは一生分に値するほど泣いたかもしれない。


だから、これからは一生分に値するくらい。


いや、もっと。


来世の分まで笑っておかなきゃならない。


だから、あたしは、今日も笑うのだ。












4月3日。


東の空の袂が、清潔な光で明るく輝いていた。


出窓に朝陽が射し込む、6畳の部屋。


歯磨きと洗顔を終えたあたしは、ドレッサーの前に座った。


ギョッとした。


「いかん! なんじゃこりゃあー!」


鏡の中で、同じ顔の女が驚いた顔をしている。


「ギャッ! 誰だ! 名を名乗れ!」


あたしだ。


ひどい顔の、紛れもなくあたしだ。


昨日はあまり良く眠れなかった。


というより、全く寝ていない。


「ふむ……こりゃいかん。せっかくの美人が台無しじゃ」


鏡に映るすっぴんのあたしは、完璧に、ネブソク王国の女王だった。


「おお……なんと傷ましい」


涙袋の下に、クッキリと可哀想なクマが浮かんでいる。


カラカラに渇いた肌にたっぷりの化粧水を、これでもかとしつこく染み込ませた。


下地、コンシーラークマを隠してパウダーを叩く。


ベースメイクを施しただけなのに、ぐっと母に近づく顔立ち。




< 20 / 653 >

この作品をシェア

pagetop