夏の空を仰ぐ花
「もやしっこみたいな体しやがって」


吉田冴子(よしだ さえこ)、31歳。


あたしの親友からは「さえちゃん」と呼ばれている。


「我が娘よ。そちは色気の欠片もないのう」


そう言って、ベッドに散乱したパジャマをてきぱきと畳む彼女は、16歳にしてあたしを産んだ。


強者だ。


「モーニン! 母」


「なーにがモーニンだ。早く着替えてリビングに降りて来やがれ」


あたしの口の悪さは、この呆れ顔の母譲りかもしれん。


しかし、母は本日も美しい。


可憐で清楚で、気品があって。


その透明感がなんとも言えない。


ユキヤナギのような女だ。


フン、とあたしは鼻で笑い飛ばした。


「なあに、式は10時からじゃ。まあ、そう焦りなさんな、母よ」


壁に掛けていた真っ白なワイシャツをハンガーから外して、あたしは笑った。


「入学式は逃げたりせん」


「じゃなくて。その制服姿、おチビどもに見せてやりな。もう、保育園のバスが迎えに来るからな」


母が言ったおチビどもとは、あたしのお宝だ。


めちゃくちゃ可愛いお宝だ。


この世の者とは思えないほど、可愛いったらない。


可愛いにもほどがある。



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