夏の空を仰ぐ花
吉田茜(よしだ あかね)、4歳。
吉田蒼太(よしだ そうた)、2歳。
可愛いにもほどがある。
「ほう。なるへそ!」
あたしはパリッとした真新しいワイシャツに、左腕を通した。
「タイムイズマネー! もう迎えの時間か。承知した。じきに参るゆえな」
お前は戦国時代の人間か、と爆笑しながら母は下へ降りて行った。
ワイシャツのボタンをとめて、燕脂色の蝶ネクタイをしめる。
丈を詰めてもらった紺色のスカート、ブレザー。
南高の校章が刺繍された、紺色のハイソックス。
「おおお……似合い過ぎるぜ、あたし」
肌への馴染み具合も感触も、生地の重さも。
中学のセーラー服とはまるで違う。
クローゼットを開き、つい先日まで毎日のように着ていたセーラー服に、そっと触れた。
思わず、うっと息をのむ。
両手では抱えきれないほど詰まった想い出たちが、手のひらから体内に流れ込んでくる。
「世話んなったね。バイバイ」
セーラー服から手を離し、静かにクローゼットを閉めた。
あたしの中学時代は、少し、切なかった。
あの頃、見上げる空はいつも無色だった。
晴れの日、雨降り、くもり空。
雪の日も。
いつだって無色透明、つまらない色をしていた気がする。
吉田蒼太(よしだ そうた)、2歳。
可愛いにもほどがある。
「ほう。なるへそ!」
あたしはパリッとした真新しいワイシャツに、左腕を通した。
「タイムイズマネー! もう迎えの時間か。承知した。じきに参るゆえな」
お前は戦国時代の人間か、と爆笑しながら母は下へ降りて行った。
ワイシャツのボタンをとめて、燕脂色の蝶ネクタイをしめる。
丈を詰めてもらった紺色のスカート、ブレザー。
南高の校章が刺繍された、紺色のハイソックス。
「おおお……似合い過ぎるぜ、あたし」
肌への馴染み具合も感触も、生地の重さも。
中学のセーラー服とはまるで違う。
クローゼットを開き、つい先日まで毎日のように着ていたセーラー服に、そっと触れた。
思わず、うっと息をのむ。
両手では抱えきれないほど詰まった想い出たちが、手のひらから体内に流れ込んでくる。
「世話んなったね。バイバイ」
セーラー服から手を離し、静かにクローゼットを閉めた。
あたしの中学時代は、少し、切なかった。
あの頃、見上げる空はいつも無色だった。
晴れの日、雨降り、くもり空。
雪の日も。
いつだって無色透明、つまらない色をしていた気がする。