夏の空を仰ぐ花
がっかりだ。


せめて、笑って別れるくらいしてほしかった。


あたしは唇をきゅっと噛んだ。


「負けず嫌いなんだか、強情なんだか。正義感が強いっていうか」


静かな口調で呟いて、補欠があたしの額をコツンと突いた。


「心配すんな」


「……どういう意味だ」


顔を上げると、補欠は小さく笑っていた。


「絶対バカにされるから、翠には言うなよって口止めされたんだけど」


「What?」


「こうなったからにはバラすしかねえな」


「……なに」


「健吾、今日は遅刻決定だ。駅に行って、あっこに気持ち伝えるらしいぞ」


補欠が空を見上げて、口角を上げる。


見上げた空は曇天で、今にも降り出しそうだ。


「何かかっこいいセリフでも考えて、夜更かしでもしたんだろ」


見上げながら、補欠が話し続ける。


「あっこに何をどう伝えようかって、悩んで悶えてさ」


様子が目に浮かぶな、そう言って補欠がプハッと吹き出す。


「それで寝坊でもしたんだろ」


健吾が夜な夜なうんうん悶える姿が、目に浮かぶ。


あっこのキュートな笑顔がその隣に浮かんで、ぎゅうっと胸を締め付ける。


「そうか。そういうことだったか」


なーんだ、と荷台にまたがった時に補欠が言ったことに、呆れてしまった。


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