夏の空を仰ぐ花
「間に合うといいけどな。時間、確か9時発の特急だったよな」


「……おい、補欠」


「え? 大丈夫だろ。時間まだあるし。間に合うって」


顔が引きつる。


「いい加減にしてくれまいか!」


あたしは補欠の背中に思いっきりパンチした。


「いっ……てえー」


「時間、8時発の特急だぞ!」


シーンと静まり返るあたしたちの周りで、枯れ葉の足音だけがむなしく響く。


「はあー?」


「はあじゃねえ! バカかお前らは! 昨日、ホームルームであっこが言ってただろうが!」


補欠が慌てて学ランから携帯電話を引っこ抜く。


「……7時20分」


やべー、と補欠は慌てて健吾の携帯電話にコールした。


何度も、何度も。


「出ねえ。何やってんだ、あいつ」


ちっ、と舌打ちをして、補欠はあたしの腕をぐいっと引っ張り、自分の腰に巻き付かせた。


「わり。しっかり捕まってて。飛ばす」


そう言った直後、


「ぎ……」


本当に補欠は自転車を急発進させた。


「ギエエエー!」


補欠の自転車は12月の風を真っ二つに切り裂いて、閑静な住宅街を抜けて大通りを突っ切り、健吾の家の前で急停車した。


自転車を降りて、


「健吾呼んで来る」


と補欠がインターホンを押そうとした時。


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