夏の空を仰ぐ花
思春期真っ只中を生きていたあたしは、俗に言う反抗期を突っ走っていた。


突っ張って、ありんこみたいな小さな事にも反抗していた気がする。


それがこの世代では格好いいことなんだと思っていたし、信じていた。


中学2年の秋の始まりに、つまらない毎日にむしゃくしゃして、


何かが変わるような気がして、左耳に穴をあけた。


道具は安全ピン。


痛かった。


放課後、結衣を道ずれに街の雑貨屋に繰り出し、中学年のおこずかいでもおつりが来る、安物のピアスを買った。


翌日、それを着けて登校すると、案の定、生徒指導室へ連行された。


そんなことですら格好いいと思っていた。


「吉田さん。どうして呼び出されたのか、分かるわよね」


あたしは、担任の女教師が猛烈に大嫌いだった。


塙橋郁子(はなばし いくこ)。


確か、歳は34だったと思う。


生徒たちの間で、彼女は「マジョ」と密かに呼ばれていた。


背中までの長い黒髪が魔女みたいだったから。


「あなたはまだ、中学年なのよ」


そう言った彼女もまた、あたしのことが嫌いだったはずだ。


美人で生真面目で、冗談なんかが通じるような相手じゃなかった。


「親が親なら子も子って言うけど。本当なのかしらね」


マジョがため息混じりに漏らしたその無防備な一言は、日本刀並の鋭い刃となって、あたしを切り刻んだ。



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