夏の空を仰ぐ花
ガチャリと音がして、焦げ茶色のドアから、


「……お……何だお前ら」


と目を丸くした健吾が出てきた。


ぜいぜいハアハア息を切らす補欠と、完全防備のあたしを見て、


「何だ、何事だ」


と健吾はキョトンとしていた。


息も絶え絶え、補欠が必死に声を絞り出す。


「時間……発車時間! 8時発の特急だって」


ぽかんとしていた健吾が、顔色を変えた。


大粒の目がぎょっと大きく開く。


「あれっ……携帯……あれっ」


健吾は学ランのポケットに手を突っ込んだり、ズボンを叩いたり、見るからにうろたえている。


「……あっ!」


どうやら携帯電話を忘れて出てきてしまったらしい。


現代っ子のくせに。


でも、それくらい、健吾は動揺して、いっぱいいっぱいだったのだろう。


家に引き返そうとした健吾を、補欠が引き止める。


「んな時間ねえよ! 今、7時半過ぎたぞ」


発車時刻は、8時2分。


ここから駅まで飛ばして15分というところか。


ギリギリだ。


紙一重だ。


もし、信号全てに捕まりでもしたら、間に合わないかもしれない。


それくらい瀬戸際、崖っぷちだ。


唇を噛んで、健吾が立ち尽くす。


「……もう間に合わねえよ」


< 240 / 653 >

この作品をシェア

pagetop