夏の空を仰ぐ花
この土壇場で、何をほざいてやがる。


「健吾、てめ……」


あたしが詰め寄ろうとした時、補欠が健吾の学ランに掴み掛かった。


「お前にはねえのかよ」


頭ひとつ分背の高い健吾を、補欠が睨む。


「……何が」


「なりふり構ってらんねえくらい、どうしても伝えたいこと、あるだろ」


補欠……。


さすがのあたしも固まってしまった。


補欠が感情を露わにすると、こんなふうになってしまうのか、と猛烈な衝撃を受けた。


「間に合わねえって決めつけんなよ! 間に合うって決めつけろよ!」


補欠を睨み返しながら、健吾は口を一文字に結んだ。


時間は容赦なく、刻一刻と過ぎて行く。


息をのむ空気を漂わせるふたりの横を、一台のワゴン車が通過して行った。


「こんにゃろー!」


まるで地響きのような声を出して、健吾は補欠の手を思いっきり振り切った。


そして、スポーツバッグをアスファルトに置き捨てて、自転車にまたがり、駅方面に向かって行った。


凄まじいスピードで。


「ったく」


健吾が残して行ったスポーツバッグを小脇に抱えて、補欠が戻って来る。


「置いてくなよ。大事なもんなのに」


ぶつぶつ呟いている補欠から、健吾のスポーツバッグを奪い、


「貸せ! あたしが背負う」


あたしはそれを肩から掛けた。




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