夏の空を仰ぐ花
健吾の強い気持ちが起こした奇跡は、もうひとつの奇跡を引き寄せた。


「あっこ!」


聞き覚えのあるばかでかい声がした方を見ると、特急列車専用の改札機に飛びついて、健吾が身を乗り出していた。


改札を抜ける人たちが、何だ何だと物珍しそうに見ながら通過していく。


あたしは無意識のうちに、補欠の手を握っていた。


ごくりと息をのむ。


「あっこ!」


そのシーンはまるで、映画のラストを飾るワンシーンのようで、釘付けになった。


改札の向こうで、真っ白なトレンチコートの彼女が、ゆっくり、振り向いた。


「……健吾くん!」


健吾を見つけた瞬間、あっこは両手から荷物を床にボトボト落として、


「うそ……なんで……」


と両手で口元をふさぎ、目を真っ赤に潤ませた。


あれは、あっこの両親だろうか。


あっこの肩を叩いて、何かを伝えると、健吾に向かって微笑んだあとホームに続く階段を降りて行った。


健吾もふたりに会釈をして、再びあっこを見つめる。


「おはよー! あっこ」


発車時刻間近を知らせるメロディーと、朝の挨拶や雑談が飛び交う中、健吾が笑った。


あっこは大きな目いっぱいに涙を浮かべて、こくりと頷いた。


「ごめんな! ずっと避けたりして! 悪かった!」


必死に訴える健吾に、あっこはふるふると首を振った。



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