夏の空を仰ぐ花
女子が好きな男子に下さいとねだるのが、一般的なのだろう。


しかし、昔、おばあちゃんからこんなことを聞いたことがある。


女がねだるのと、男が自ら渡すのでは、意味合いが全く違うらしいのだ。


そもそも、学ランのボタンにはそれぞれ意味がある。


第一ボタンは、自分。


第三ボタンは、友達。


第四ボタンは、家族。


第二ボタンは、大切な人。


第二ボタンは心臓に一番近い位置にあるから、あなたのハートを掴むという意味があるらしいが。


それを男の方から、健吾自ら渡したというのなら。


あっこにハートを捕まれた、とか。


掴んで下さい、だとか。


そういう意味合いになるんじゃないだろうか。


あっこへの想いを人質にして送り出した健吾が、誇らしく思えた。


そもそも、おそらく、健吾自身そんな深い意味など、考えでもいないのだろうけど。


その音にハッとした。


ジリジリと急かすように、メロディーが鳴り響いた。


固まる健吾とあっこが見つめ合う中、容赦なくアナウンスが流れる。


「間もなく、一番線に、八戸行き、特急××が到着します」


「健吾くん!」


アナウンスに負けない大きさで、あっこが声を張り上げた。



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