夏の空を仰ぐ花
「ちょっと! 先生!」


ブツリ、と鈍い音がして、それはたぶんあたしの頭の線が切れた音だった。


あたしは何を言われてもかまわん。


けど。


「父と母を悪く言ったら、ぶっ殺す!」


後先考えず、その場の感情だけがあたしを動かした。


「もう二度とそんなこと言うな! 分かったか!」


あたしは、思いっきりマジョを突き飛ばした。


悔しくて、情けなくて、終いには涙が止まらなくなった。


ナミダ王国の王女、復活。


あたしのせいだ。


あたしのせいで、ふたりがバカにされてしまった。


こんな魔女みたいなつまらない女に。


耳に穴なんか開けなきゃ良かった。


結局、何も変わんないのに。


先生に乱暴したと問題になり、案の定、父と母は学校に呼び出された。


「本当にすみませんでした」


『翠にはよく言い聞かせます。ご迷惑をお掛けしました』


あたしの隣で必死になって頭を下げるふたりを見るのは、何よりも惨めだった。


「まあ、来年は受験がありますし。今は大事な時期でもありますしね」


父と母が下手に出まくったのをいい事に、


「私側としましても、大事にしたくありませんから。今回は穏便に」


とマジョは嫌みたっぷりに微笑んで、


「しかしですね、お父さん、お母さん。世の中、甘く見ないで下さいね」


その言葉を放った。



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