夏の空を仰ぐ花
1ミリもずれることなく、その矢は刺さり貫通する。


「もし、今日の健吾の立場がおれだったらって。補欠はどうしたんだろうって。勝手に不安になってたんだろ?」


だろ? と念を押して、補欠が肩であたしを押した。


「残念賞! ハズレ」


あたしは、わざと明るく振る舞ってあっかんべえをした。


本当はズバリ言い当てられたのに。


「なんつう猿顔なんだろって感心してたんじゃ!」


あたしみたいなガサツな女が、不安なの、なんて言ってみろ。


気持ち悪いに決まってる。


それに。


そんな柄にもないことを口にしたら、めんどくさい女だと思われるんじゃないかって。


またひとつ不安になった。


「はー、さみさみ。反省文さっさと提出しに行こうぜー」


バン!


補欠の真っ直ぐな瞳から目を反らし、ぶっきらぼうに窓をしめて施錠した。


「おい、翠」


捕まえようとする補欠の手をするりとかわして、

「行くぞ、補欠」


あたしはふたり分の原稿用紙を持って、ドアに向かった。


ドアノブを握る。


ノブを回す。


ドアが数センチ開きかけたその時、


「翠」



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