夏の空を仰ぐ花
そればかりだ。


振り向いて顔をあげると、補欠が微笑んでいた。

なぜか、泣きそうになった。


あたしは正義の味方の鎧を身に着けた、ただの見栄っ張りだ。


中身は腹黒い。


最低最悪なことを考えて、ほっとしている自分に呆れた。


だって、思ってしまったのだ。


健吾とあっこが、補欠とあたしじゃなくて良かった、なんて。


補欠が目を細める。


そのやわらかい眼差しに吸い込まれそうになりながら、あたしはドアにもたれかかった。


「あたしたち、この先もずっと、一緒に居られる?」


語尾は不安で震えてしまった。


「離れるのだけは……嫌だ」


あたしは原稿用紙をグシャッと握って、唇を噛んだ。


「そんなの分かんねえよ」


補欠の一言がぐさりと胸に突き刺さる。


「けど」


と補欠はあたしの震える手を掴んだ。


「もう無理だろ」


「え?」


顔を上げると、補欠はフッと小さく笑っていた。


「もう離れらんねえだろ。おれたち。だったら、飽きるまで一緒に居るしかねえだろ」


そう言って、補欠があたしに顔を近づけてくる。


「飽きるまで? 飽きたら離れなきゃならんのか」


ここは別に泣くようなシーンでもないのに。


勝手に涙があふれたー


トン。


補欠が左手をドアに押し付ける。


「少なくとも」


男っぽくて熱っぽいその目つきに、心臓が飛び跳ねた。


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