夏の空を仰ぐ花
初雪の日に、ひとつの恋が固い約束で結ばれ、あたしたちの恋は固い絆で繋がった。


そんな冬の出来事だった。


真っ白な雪の日。


補欠の腕の中は広くて優しくて、あたしはただただ幸せで。


気の強いあたしも、ただのひとりの女の子だったんだとちょっとばかし照れくさかった。


とにかく幸せに包まれて。


だから、自分の身に起き始めていた小さな変化に、何も気付いていなかった。


この先ずっと、補欠と一緒に生きて行けるんだと、そう信じて疑いもしなかった。


こうやって、補欠の腕に抱きすくめられて、あたしの未来は順風満帆に輝くはずだったのに。


あたしたちの知らない所で、何かが確実に狂い始めていた。


これも運命だというのなら。


神はなんて惨い運命をあたしに与えてくれたものかと、悔しくなる。


「な、翠」


「なんだ」


「お前こそ、本当におれなんかでいいのか?」


「どういう意味だ」


「おれ、3年の夏まで野球漬けだぞ。遊んでやれねえし。いいのか?」


何を今更。


そんなこと、覚悟の上だ。


「んなことにびびって、補欠エースの彼女なんかやってられっか!」


遊べないことが何だ。


健吾とあっこは遊べないどころか、会えないんだ。


「それでも、あたしは補欠がいい。他の男は嫌! あたし、補欠が好き!」


「……ストレートすぎんだよ」


水滴だらけの窓の外。



初雪。


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