夏の空を仰ぐ花
『生徒の見本になる教師がピアスをしていて。そんな教師に言われても説得力がねえ……』


そう言ってブハッと吹き出した父を、睨み付け悔しそうに口を一文字に結んだマジョを見た時は、スカッとした。



その時の父と母は、共に29歳だった。


本当は泣きたかったけど、我慢した。


こんな父親もこんな母親も、世界中探したって、きっとどこにも居ないや。


非常識にもほどがある。


あたしの父と母は、宇宙一だ。


そう、世界中に自慢して言いふらしたくてたまらなかった。


帰り道、沈黙を破ったのは母の明るい声だった。


「なんじゃ、あのババアは!」


水色のマタニティワンピースが、とてつもなく似合っていた。


「若いからってナメてやがる。あの女と母はうまが合わん。気にすんなよ、翠」


「えっ……」


「人を殺したわけじゃなし。泥棒したわけでもなし。警察沙汰になったわけでもないのに、ブーブーやかましいんじゃ」


なー、おチビ、と母は大きな臨月のお腹を愛しそうにさすった。


『それにしても』


隣でゲダゲタ笑ったのはスーツ姿の父だった。


仕事を投げて、あたしのために駆け付けてくれたのだ。



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