夏の空を仰ぐ花
「イガ!」


補欠を無視して、イガグリがあたしを見つめる。


とても優しい目で。


「いろいろ大変だろうけど。ファイト、翠ちゃん。このことは誰にも言わねえから。うん」


じゃあ、そう言って、イガグリは笑い続ける健吾を引きずって、鳥居をくぐって行った。


「……だ、そうだ。頑張るか、補欠」


バシッと背中を叩くと、補欠は背中を丸めてため息をついた。


「イガのやつ、すぐ人のこと信用するんだぜ。まじでおれらの子だと思ってるかも」


「別にいいじゃんか! 関係ねえよ!」


「はあ……」


その時、茜があたしの袖をグンと引っ張った。


「みどりねえちゃん。あかね、おなかすいたよう」


「えっ」


携帯電話を開くと、なんだかんだでもう11時半を過ぎていた。


「あー、もうじき昼飯か」


たしかに、長蛇の列に並んだからなあ。


「そうたもー!」


補欠に肩車されながら、蒼太も言い出した。


「しょうがねえな」


母から預かってきた昼飯代で、ファミレスでも行くか。


「じゃあ、行くか。今日はありがとな、補欠」


「ああ、うん」


補欠がそっと肩から蒼太を下ろした。


「じゃあ、またメールしてあげるから」


茜と蒼太の手を引いてきびすを返した時、


「翠」


補欠に呼び止められた。



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