夏の空を仰ぐ花
あたしの知らない女の子の名前を口にした補欠が、指差した補欠が、すごく遠くに感じた。


「短かったけど……付き合ってた子」


やっぱり。


「ふーん。へー」


あたしはたぶん、今、ひどい顔をしているんだと思う。


嫉妬に焼けただれた、ぶっさいくな顔なんだと思う。


「補欠のくせに。いっちょまえに女いたのか」


平然を装って笑ったものの、わざとらしくなってしまった。


「なんだよ、いっちょまえとか。失礼だな」


補欠が、あたしの額をコンと小突いた。


悔しい。


あたしが一番最初の彼女じゃないのか。


悔しい。


悔しくて、狂いそうだ。


「絢子とキスしたのか?」


「はあーっ?」


笑う補欠を、あたしは睨んだ。


補欠には笑い事かもしれんが、あたしには笑えないのだ。


これっぽっちも。


「翠?」


「うるせえ! 答えろ! したのか?」


ずいっと顔を近づけて睨むと、補欠はうっと言葉を詰まらせて首を振った。


「してねえよ。つうか、至近距離で睨むな。すげえ迫力」


「そうか。じゃあ、何はしたんだよ」


「は?」


「付き合って何もないわけないよな?」




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