夏の空を仰ぐ花
ただ、とにかく嫌だった。


もう過去のことなのに、どうしようもないことなのに、変えることなんかできっこないのに。


嫌だった。


あたしは奥歯を噛んで補欠を睨んだ。


唇が勝手に震えた。


やばい。


泣く。


「……翠?」


心配そうな表情を浮かべて、


「なんでそんな顔してんだよ」


補欠が手を伸ばしてくる。


「触るな! やだっ!」


あたしは握りしめていたアルバムで、補欠の左手をバシッと叩いた。


着物の袖が、補欠の頬を叩いた。


「痛ってえ……何すんだよ」


あ……。


補欠の手の甲が赤くなっていた。


ごめん。


心の中では素直に言えるのに。


ごめん、補欠。


でも、その一言がどうしても口から出て来ない。


「嫌! 絢子と繋いだ手なんか嫌い!」



何を言ってんだ、あたし。


ダダをこねるガキか。


バカか、あたし。


「もう補欠と手繋がない! 嫌! バカヤロー!」


自分でもびっくりして、だけど、どうにも止められなかった。


あたし、こんなにやきもちやきだったのか。


ばかみたいだ。


「はあ……」


補欠が疲れた顔をして、重っ苦しいため息を吐きながら、あたしから目を反らした。


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